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Scop参上!! その肆

前回の続きです。

きちんと伝えようとするとどうしても長くなりますが、
最後まで読んでいただくとうれしいです。


干潟のカニの体液の浸透圧と生息位置の関係を
調べてみようというテーマです。

まず、方法から述べましょう。

①サンプルのカニを採ります。

②サンプルのカニの体液を取り出し、遠心分離して
上ずみをシャーレに入れます。

DSC00111.jpg


③5種類の基準食塩水を別のシャーレに用意しておきます。
 内径8mmのガラスキャピラリーに基準液を3mm程度とり、
空気をはさんで次にサンプルを1mmほどとります。それを繰り返し、
7cmのキャピラリーにサンプルと基準液が交互になるようにします。
ただし、両端は基準液になるようにします。その後キャピラリーの
両端をガスバーナーで焼封します。

④作製したキャピラリーの中のサンプルの長さを作製直後に測ります。
少し時間をおくと、水分が水蒸気として濃度の薄い液から濃い液へ
移動します。移動し終わったころを見計らって(2日後としました)
再度サンプルの長さを測ります。

size焼封


⑤作製直後の液柱の長さを100%とし、2日後の長さの割合を求め、
基準液の濃度ごとにグラフ用紙に点を打ちます。点をつないだグラフと、
100%の軸線との交点がサンプルの浸透圧となります。


結果は次のようになりました。何回も測ったカニはそれぞれ平均して
浸透圧の値を出しています。


スナガニ科6種


この図から、干潟の上部(満潮線付近)にいるカニの浸透圧は高く、
下部(干潮線付近)にいるものの浸透圧は低いということがわかりました。
このことから、次のようなことが考えられます。

スナガニは、満潮線付近あるいはそれ以上の潮上帯に巣穴を掘って
生息し、水中にいる時間に比べて干出時間が圧倒的に長い。
干潮時に河川水が主となった塩分濃度の低い汽水につかることはない。
満潮時に巣穴は水没するが、このときの汽水は海水の影響を受けた
かなり濃度の高くなった汽水と考えられる。
また、生息地である潮上帯は乾燥状態にさらされやすく、干出時には
体内から水分が失われ、塩分が濃縮されているのではないかと考えられる。
体内の塩分濃度が一時的に高くなったとしても、毎日2回の満潮時に
海水で水分を補給できるため、生命活動に支障はないと考えられる。
ちなみにこの個体を採集したのは7月の猛暑の日の干潮時の焼けるような
砂の上であり、休みなく巣穴掘りをしていた個体であった。

コメツキガニも陽の照る干出した砂地でエサを食べている時に採集した
個体であり、程度の差はあれ、同様に浸透圧が上がっていたと考えられる。

ハクセンシオマネキとチゴガニの生息位置は重なるため、どちらが上部か
下部かは言いにくいが、どちらかといえば、チゴガニの方が低い方に
向かって分布が広い。両者とも同じような浸透圧であったのは、干出と水没が
同じような時間となる地点で採集された個体であるからと考えられる。
もっと低いところに生息するチゴガニをサンプルとして測定してみれば、
もっと低い値になっていたかもしれない。ちなみに、チゴガニの生息域の
汽水の満潮時での塩分濃度は2.0%であり、干潮時に至っては1.0%にまで
低下する。瀬戸内海の塩分濃度は平均で3.3%であるとされており、
太田川河口域の満潮時が2.8%であることに比べるとかなり低いため、
仮に浸透圧調整機能があまり発達していないとすると、かなり低い値と
なるはずである。

ヤマトオサガニは潮間帯の下部に生息しており、干潮時に採集できる。
したがって、サンプル個体は塩分濃度の低い汽水につかっていた状態の
ものと考えられる。ただし、三つのサンプルのうち、最初のひとつは
他のふたつと比べて上流部でしかも干底時に採ったものであり、残りの
ふたつはいわゆる河口部で満ち始め時に採ったものである。浸透圧の値に
ばらつきが出たのは外液の濃度に体液が影響を受けたためではないかと
考えられる。ただし、この時の汽水の塩分濃度は、瀬戸内海の平均濃度の
1/3程度であるから、もし塩類調整機能がまったくないのなら、
浸透圧は0.1~0.2mol/ℓの値となるはずであり、調整能力がまったくないとは
考えられない。

サンプルのシオマネキは、吉野川の河口で大潮のほぼ干底時にシルト状の
泥水に没していた個体である。あいにく現地の塩分濃度は測定できなかったが、
吉野川から流れてくる大量の淡水の影響を受け、シオマネキの体内の浸透圧が
低かったのではないかと考えられる。


このように、それぞれのカニにおいて、体内の浸透圧は生息場所でさらされる
汽水の影響や乾燥の影響を受けて変動すると考えられますが、その影響に
完全に従属した値ではないのは、何らかの調整機能あるからではないかと
考えられます。

干潟の上部のカニは塩分濃度の比較的高い汽水につかるため、常に体内を
高い浸透圧に保つ方が、浸透圧調整に要するエネルギーが少なくてすむと
考えられます。

逆に低いところにすむカニは真水に近い濃度の汽水の影響を
長く受けるため、体内を低い浸透圧に保っているほうが有利であると考えられます。

中間的な種はそれなりに浸透圧調整に要するエネルギーが少なくてすむ程度の
浸透圧に保っていると考えられます。


今回紹介したのは、スナガニ科のなかまの結果だけですが、私たちは、
太田川河口域にすむほとんどすべてのカニの浸透圧を測定しました。

その実験操作は今までに46回に及んでいます。
私たちはもう職人です。


hyousiのコピー


                            (2013.03.03 こはく)
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[ 2013/03/03 09:44 ] ひろば | TB(0) | CM(4)

こはくさんへ

こはくさん達の研究は準特選をとってらっしゃいますよね。なのでまずは、準特選・・・おめでとうございます!すごいですね!カニの浸透圧とかいろんなことをやられて、そのことをブログに書いていただきとても勉強になりました。ありがとうございます!
[ 2013/03/03 11:53 ] [ 編集 ]

葵さんへ

読んでくださってありがとうございます。
まわりのたくさんの方に支えられ、
試行錯誤しながらやっています。
葵さんもがんばってください。
[ 2013/03/03 19:01 ] [ 編集 ]

こはくさんへ

とても長い文章でしたが、分かりやすくまとめられていたので読みやすかったです。これは、葵さんと少しかぶるのですが、かにの浸透圧といわれても「はて?」とちんぷんかんぷんでしたがこの文章を読んでどのようなものかが分かったような気がします。我々もたとえ長くなってもわかりやすく、読んでいる人たちにとって分かりやすい文章を考えて生きたいと思います。
[ 2013/03/03 23:35 ] [ 編集 ]

さいたまさんへ

長い文章を読んでくださってありがとうございます。さいたまさんもがんばってください。
[ 2013/03/05 18:03 ] [ 編集 ]

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